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小学校生時代、内向的だったこともあり、読書はかなりしたように思う。ベストスリーは、「人魚姫」「雪女」「かぐや姫」であるが、お姫様が好きだとか、女性が主人公だとかという理由ではない。他の作品がハッピーエンドであるのに対し、この3つは悲劇なのである。特に、人魚姫は、泡となって消滅してしまう。小学生3年生の私にとってショックでその後も忘れる事が出来ず、現在に至っている始末である。絵であれ、映画であれ、見世物小屋であれ、「人魚」と名のつくものは、万難を排して見に行った。勿論、自分でも描いた。今では、昔の絵は残っていない。箔アートの技法を使うようになってからも、思い出しては「人魚」を書いた。この作品はその最初のものである。6年生の修学旅行で伊勢志摩に行ったが、お土産に買って帰ったスノウボールは、長い間、私の箪笥の飾り戸棚に飾っていた。上半身は艶めかしいいわゆる美女で、長い黒髪で胸を隠していた。下半身は、全くの魚。何と神秘的な事か。幼い私は、海に人魚がいればいいのにという思いを断ち切れなかった。ところが、江戸川乱歩の短編小説「人魚」を読み、そのリアリティあふれる表現にまたもやショックを受けた。スノウボールの人魚は、最早、子供だましのおもちゃとなり果てた。
このような経過をたどって、私にとっての人魚は、一種のエイリアンとなってそのイメージもずっと魚類に近いものとなっていったのである。