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本来のもみ箔の技法は、箔を貼った地紙を実際に手でもんでシワをつけていたが、時間もかかるし均一性もなく、同じものが作れないので、もみ箔とよく似たマチエールを作る技法が開発された。

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この写真を見ても分かるように、クモの巣状に銀箔が抜けている。これは銀箔にシワを付けてできたものではない。

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この手描きの扇の銀箔地が新たに開発された技法の「もみ箔」によるものである。本来のもみ箔を凌ぐ風合いなので、私はこれを「洗練もみ箔技法」と呼んでもいいのではないかと思うほどである。

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この細い線は真綿を伸ばした線である。実物を持っていないので、言葉でしか説明できないのだが、やってみる。

昔の映画でよく蜘蛛の巣が出てくるが、あれこそが「真綿」を伸ばしたものに他ならない。真綿とは絹で出来たワタのことで、木綿のワタとは違って軽くて薄いフラットな状態で売られている。その真綿を扇より一回り大きな長方形の木枠に均一に伸ばしてぴんと張ったものを用意する。

次に、扇の地紙に膠とふのりを混ぜたものを一面に塗布して乾かし、これを何枚も重ねたものを紙で挟み、その廻りを十分に水を含んだバスタオルのような布でくるみ、一昼夜しめしをかける。すると、扇の地紙の膠とふのりは布の水分によって膨らむがお互い同士にはくっつかない状態になる。ふのり自体の離型性を利用しているのである。手にも真綿の糸にもこの膨れた糊はつかないが、銀箔を貼り付ける力は十分ある。

この銀箔だけを貼り付けられる扇地の上に、先ほどの真綿を伸ばして張った長方形の木枠を置く。この時点では扇地と真綿の糸はぴったりくっついている状態であるが、ふのり分の多い膠が膨らんだだけの糊なのでお互い同士は張り付かない。この上に銀箔をささっと置いていき、毛足の柔らかな幅の広い平刷毛で箔を抑える。そして素早く真綿の貼った木枠を剥がすと、真綿の部分だけが抜けた銀地が出来上がるのである。この間、恐らく一分足らずといったところか。まさに洗練された職人の見事な技。

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木枠の真綿が新しいうちは、銀箔は細く抜けるが、次第に真綿の細い糸に銀箔が絡んできて、その細さの具合がだんだん切れ味が鈍く太くなってくる。

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糸の交点の切れ味がやや悪くなっているのが分かる。

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この扇のもみ箔の抜けは、かなり鈍くなっている。

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拡大すれば、先ほどの扇のもみ箔とは随分抜けの部分が太く鈍くなっている事がわかる。

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要するに、木枠の真綿が新しいうちに銀箔をはられたものほど補足銀箔が抜けて美しいのである。
やがて、この木枠の真綿が破れて使えなくなるのだが、その寿命は真綿をいかに均一に伸ばすかという腕前による。私も一度挑戦してみたが木枠の大きさになる前に敗れてしまった。

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この「洗練されたもみ箔」の技法も職人さんの数とともに減って、シルクスクリーンの大量生産に変わりつつあるのが現状である。
もみ箔の扇が、時々骨董市やリサイクルショプの片隅に転がっていることがたまにある。そんな時は、「掃き溜めに鶴」とばかりに絶対に買う。