「心の病の嘘と真実」の著者、大塚明彦氏は、早く(昭和58年)から精神科外来を開業し今日に至るまで約10万人の患者を診てきた精神科医である。
もう一人、著書に名を連ねておられる森本志保氏は、大森昭彦氏の娘である。


表紙のタイトルの下に書かれてある「精神科医が病気を治せない理由」こそ、すべての人が知りたいと思っていることである。
其の理由あげると、
・経験の少ない医師が精神科医を標榜して安易に心療内科や精神科を開設してきたこと。
 心療内科では「心の病」は診られない。心療内科は首から下の体が心に不調を招いた病気を診るのが原則。
・製薬会社の新薬に合わせて病名や診断基準が変わるという現実。
  向精神薬の過剰投与が問題になっていること。
・精神疾患の治療に治療計画を患者に明示できない医師がいること。
・慢性化と再発の繰り返しの殆どは、医師の誤診であるという現実。
・精神疾患は、脳の疾患であると心得るべきで、発達障害が影に隠れていることが多いのに、大人の発達障害についての 知識が殆どない医師が多いこと。
・カウセリングや精神分析では、脳の疾患は治らないという原則。
 医師は、人生相談に最も向いていない人種であるという事実。


目次だけを読んでも著者が何を主張しようとしているのかよく分かる。


この目次を見ていると、精神科のドクターショッピングの現状がよく分かる。


精神疾患は百人百様である。患者から其の情報を引き出すのが医師の役目。


新しいアプローチとして、再発を繰り返したり慢性化している精神疾患の根底に発達障害を考えてみる必要があると、長年の経験のもとに大塚医師は主張している。

これぐらい熱心な精神科医が増えれば、うつ病は「心の風邪」と言っていられるのにと思ってしまった。
兎に角、心の病を疑うようになったときにはこの本をまず読んで見る必要がある。精神医療の現状を知らずして、行き当たりばったりに心療内科に駆け込むのは、恐ろしいことである。