電線風景を追って写真を撮り続けている私としてはかの有名な江川海岸に行くことが念願であった。

江川海岸は、東京湾に面し東京に一番近い海岸なので対岸の東京が見えるのである。東京駅から木更津に高速バスが通っていて1時間ほどで行くことが出来る。この江川海岸は知る人ぞ知る電柱マニアの聖地である。海に向かって電柱が並んでいる風景は現実離れしていてシュールですらある。木更津から江川海岸まではタクシーで行くのがベスト。江川海岸の入り口まで連れて行ってくれる。帰りは携帯でタクシーを呼べば同じ場所まで来てくれる。


この日は風が強く寒い日であったので、人はこの孤独な青年一人のみ。勿論カメラを首からぶら下げていた。このうら寂しい場所に来るのは電柱の写真を取りに来る酔狂な電柱マニア以外いないのである。


向こうの方にも電柱が並んでいる金田海岸があるが、今回は江川海岸のみに限った。


船着き場から対岸の東京を臨む。


孤独な青年はリュックから三脚を取り出していた。


船着き場には小さなボートが数隻。夕闇が迫ってくる時間で、且つ引き潮の時刻を狙っていったのである。


陸地最後の電柱。最果ての地のような気分が漂う。


左側から電線が来ている。その電線が沖の灯台に電気に送るために伸びているのである。勿論、電線は電柱あればこそである。


江川海岸の電柱の写真は見られる限り見てきた。


満潮の水の中に立つ電柱列の写真の素晴らしいのはたくさんあって、今更私が撮ることもないので、干潮の風景を撮ることにしたのである。


沢山の電柱写真を撮ってきて思うに電柱写真の善し悪しはその日の天候具合に左右される。
それも、太陽と雲の状態である。綺麗な夕焼け雲が出ていればほぼ成功である。


しかしこの日はドヨーンとした夕焼けでがっくりしてしまったが、人がいなかったので荒涼とした感じを強調することに終止した。


風がゴーゴーと音を立てて吹く。寒くて手先がかじかむ。


強調しなくとも十分荒涼としている。


もうひとりの青年もあれこれ場所を変えながら写真を撮っている。


潮が少しずつ満ちてくるのが分かる。空が少し明るくなってくる。


この世の果の感じそのものであった。


しかし、対岸には東京が見える。


たった一本の手前の電柱の風景が心に染みる。


ほんの一瞬綺麗なハーフトーンの夕焼けになる。この時点ではもう戻る最中であった。


船着き場もなにかファンタスティック。途中からアベックが一組やって来た。寒くて彼女は彼氏にしがみついていた。
男性の方はカメラを持っていたので彼女はお付き合いなのであろう。彼女は薄着でさぞかし寒かろう。ロマンティックもこの強風ですっ飛んでいっているに違いない。


あっという間に陽は沈んでゆく。


寒さと風は一層増してくる。あの青年はまだ帰らない。きっと夜景も写すのだろう。


タクシーを呼んだので元の場所まで戻る。


街灯が灯り始めた。ここにあげている以外の電柱風景の写真は数え切れないほどである。いつか電柱風景の写真集を出版したい。

江川海岸の画像を夜更けに一人で見ているとこの日の寂寥感が迫ってくる。又、行きたい。誰もいない江川海岸に。