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私は、奥行きを出すことよりも、前面に迫ってくるような効果を強調する方にこだわる。本来、日本画の世界では、2次平面をいかにして3次元の立体に見せるかよりも、平面としての効果を最大限に活かすことに努力を傾けてきたように思う。その代表が、浮世絵であり、大和絵である。「余白の美」は、抽象空間を作ることにかけて、日本人の非凡さを証明するものであるが、建造物に囲まれた町中に生まれ育った私にとって、イマイチ実感を伴わない。

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どうしても、限られた画面を最大に活かすために、大きく迫力のある構図に惹きつけられる。奥行きよりは前面に迫る効果のほうを優先してしまう。

以前テレビで見たのであるが、「画面からはみ出るような表現を」と指導された弟子が、悩んだ末に、実際に画面からはみ出して描こうとしたり、レリーフのように半立体にしているのを見たことがある。これは、大きな勘違いである。先生は、効果的な構図のことや色の処理をもっと工夫するように言ったのである。

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この構図は、単調である。ただ、焦点を、中心テーマに合わせる為に、円弧や楕円の構図の上に配置してある。

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この構図は、成功している。2つの球体の差が、前面に迫る効果と時間的な移動を連想させる。画像を画面のどこで切るかは、その延長線がいかなるものであるかを想像できなければダメである。それを画面からはみ出すと表現することもある。

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大きな球体が前面に来る場合は簡単であるが、反対に、小さい方が前面に来る場合は難しい。この画像はあえて反対にしてみたのである。周りの空間処理で小さい球体が前に迫ってくる効果を助けている。

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この画像で、楕円上の飛行物体は、上から下に移動しているように見えるのには、いろんな要素が絡み合っている。楕円の左側が窓のように見えるので、もしこれが乗り物なら動く方向は右から左だと経験によって思い込むのである。次に、実際に生活している地球上では、重力は上から下へと働くという事実。そして、画面の上部より下部の方が暗く、地面を想起させる。最後に、中央右に入り口のような開口部があり、2本の直線が背後の構図を支えているようにみえること。大きな要因はこの4つである。この画像では上部のほうが前面に迫っているのである。

このように、一つ一つの画像を作るにあたって少しずつ変えているのである。あれこれ工夫するのが面白い。面白いと感じているうちは、歳を重ねるに従って、この能力は高くなるはずである。頭が硬くなってくるに従って、工夫することが苦痛になってくるのだと思っている。苦痛を避けるために、自作のアレンジとコピーでごまかしている作家も多く見てきたが、私はそのようにはなるまいと心がけている。

ある歳になるといかなる天才であろうと、頭が硬くなっていく。古今東西の名作を見て思うに、76歳から80歳ぐらいの間が一つの壁かなと思う。まあ、それでも、本人が楽しく創作できれば、それに越したことはない。例え、それが駄作だとしても。

悲しいことに、駄作かどうかは本人には判断がつかない。自分で自分を騙してしまう。・・・・これって、若い時から起こっているとしたら一体どうなるのだ。・・・・・・・・・コワッ。