NATO不拡大の「約束」はなかったとゴルバチョフ氏の発言。
プーチンは事あるごとに、「NATO不拡大の約束」ということを引き合いに出す。余りに当たり前のように繰り返すと、人は本当だと思うようになる。ウクライナ侵攻の大前提は「1990年代初めに、NATOは1インチも拡大しないとNATOや米国はロシアに約束したのに、口頭の約束だったのでそれを破って、西側は1997年以来次々とNATO拡大を続けてきた」というのがプーチンの主張である。
日本国際フォーラムによれば、「プーチンの生んだ神話」の催眠術的影響として次のように書かれてある。
露紙『独立新聞』(2015.12.15)が掲載した、1990年代初めルツコイ副大統領の報道官N・グリビンスキーの論文によれば、
≪ロシア国民はテレビによって危険な催眠術にかけられ、次のような神話が広められている。西側はロシアを敵視し、ロシアを侮辱し略奪し滅ぼそうとしている、と。この神話の核心は「侵略的なNATO」だ。NATOはロシア国境へ接近し、ロシアへの最初の一撃を狙っている、という。しかし明確なことは、1991年からクリミア事件に至るまでは、西側はロシアに重大な損害は何も与えていない、ということだ。西側はロシアが国内政治で危機に陥っていた時(1990年代)も、ロシアの地方の分離主義や住民投票を煽ったり併合したり孤立させるのではなく、逆に重要な国際組織に加盟させた。わが国で生じた諸困難の責任は、神話的なNATO拡大や「国際的陰謀」にではなく、我々自身にあるのだ。
NATO拡大に関し、「欧米はゴルバチョフに拡大しないと約束した」というのも神話だ。ゴルバチョフ自身が2014年10月16日に、「当時はNATO拡大の問題そのものが提起されなかった。それは私が責任をもって確言できる」とRussia Beyond the Headlines(露の英語メディア)で述べている。当時ロシアは西側諸国にとって敵ではなく、彼らの同盟国やパートナーとなると期待されていた。必然的に、ロシアがリベラルな民主主義の路線から離れれば離れるほど、ロシアにとって「NATOは敵」というイメージが強まるのだ≫
この論文に書かれているように、プーチンの言うNATO不拡大の約束等というもには、90年代初期のロシア側当事者や関係者、また近年の露メディアなども、それが事実ではないと否定しているということである。
被害妄想的な大嘘つきの達人はまず自分自身をだますことから始まるという。独裁者プーチンの中ではこの「NATO不拡大の約束」という事柄はもはや動かしがたい事実である。
もう一つ考えなくてはならないのは、ソ連は滅んだが、その下部組織のKGBは、紆余曲折はあったもののロシアに受け継がれ、現在のロシア政府を牛耳っている。それ故、ロシアは決して民主主義国家ではなく、欧米に敵対する国なのである。プーチンの野望は、失敗したソ連ではなく新しい大国ロシア帝国を作り自らがその皇帝となることである。あまりにも子供じみた野望に世界中が振り回されているのである。恐ろしいのは、いくら子供じみた夢であっても、プーチンという人間はその目的達成ためならいかなる犠牲も厭わないということである。彼は力至上主義である。彼が信じるものは、警察であり軍事力である。
国の動乱期には、社会の底辺から異常性格者がトップに躍り出てくるのは、世界の歴史が証明しているところである。一日も早く、ロシア国民がこのことに気づいてプーチンを権力の座から引きずり降ろしてほしい。