ロシアの弱点は「道路輸送」で、その物流構造からウクライナ侵攻を困難なものにしている
ロシアのウクライナ侵攻を困難にしているものの一つが、道路輸送という物流構造に起因しているというのが大方の見方である。
下の図は、世界の主要27か国の貨物輸送の分担率を掲げたものである。
ここで、分担率とは各輸送モードのt・km(トンキロ)ベースの輸送量の構成比で、輸送した貨物の重量に輸送距離をかけた貨物輸送総量を表す単位。
『上のデータは、ヨーロッパ諸国を中心に世界63か国が加盟する国際機関であるITF(International Transport Forum、国際交通フォーラム)が取りまとめている輸送統計による。』
参考にしたのは次のサイトである。
ロシアの弱点は「道路輸送」だった! 特異な物流構造からウクライナ侵攻を考える | Merkmal
『ロシアの物流構造の特徴は、鉄道、パイプラインといった装置型輸送路のシェアが高い点にある。道路輸送は6%と図の27か国の中で最少となっている。背景としては、国土が広く(またシベリアもあるため)道路整備が一部の地域に集中し、網羅的に発達しなかったことによるものとされている。』
『日本を始め欧米先進国では、重厚長大から軽薄短小への産業構造の転換、またジャストインタイム生産方式やドアツードア輸送に対応するきめ細かな配送需要が高まった。それに伴って、高速道路を含む道路ネットワークのインフラ整備が進み、道路輸送のシェアが大きく拡大する傾向にあるが、ロシアはこうした動きに決定的に乗り遅れていると言わざるを得ない。』
『ところが道路に関しては、ソ連時代のピーク時の86%に止まっている。つまり、鉄道とパイプラインに過度に依存し、道路輸送のシェアが極端に低いという物流構造の特徴がさらに強まっているのである。
『ロシアなど旧ソ連圏では鉄道への依存度が非常に高いが、それと同じように、物資を運ぶロシア軍の兵站線(へいたんせん。本国と戦場を連絡する輸送連絡路)は、現在でも鉄道頼りである。鉄道による移動を前提としているため、装備しているトラックの台数なども限定的であり、大量に費消される弾薬の補給の多くをトラックで行うようには設計されていない。』
『クリミア半島での戦闘においてはロシア軍の装甲車の鉄道輸送は素早く対応できた成功例であるが、これはクリミア半島までを大型戦艦による輸送があったからであるが、ウクライナの首都キーフへは一本の鉄道があるだけでそこから向こうへの輸送は道路輸送に頼らねばならなかった。
こうした兵站線の特徴からロシア軍は、旧ソ連圏内での防衛作戦は得意だが、領域の外での持続的な作戦行動を行う能力は限定的である。。
領域外への作戦行動が不得意である理由のひとつは、ロシアの鉄道の線路幅がいわゆる標準軌(1435mm)よりも幅の広い独自の広軌(1520mmまたは1524mm)であり、旧ソ連圏とフィンランドでしか使われていないからである。例えば、ポーランドには、ロシアからウクライナのキエフを経由して南部のクラクフまで、1本だけ広軌の鉄道が通っているが、ほかは標準軌であり兵站線を接続できない。
線路幅規格の共通性が旧ソ連圏に限られているのは、帝政ロシア時代の鉄道規格を引き継いだためである。敷設が始まった1830年代当時は広軌優位論が盛んであり、他国との連結はあまり考慮されておらず、広大なロシアでは標準軌より広軌の方が、輸送力が大きく有利と当時、考えられたのが理由のようだ。』
■SNSで公開された中で有名なのは、短距離地対空ミサイル戦闘車両の「パーンツィリ-S1」で、機関砲とミサイルを「KamAZ-6560」という8輪トラックに装着したもので、後輪が完全の泥にはまり、前輪のふたつが真横に曲がっているのが分かる。
『このトラック自体の重量は20tで、総重量は30tを超える。専門家は装備しているのが中国製の軍用タイヤ「Yellow Sea YS20 tires」(中国名:黄海 YS20)だと断定し、このタイヤが“戦場で極めて評判の悪いタイヤ”であると評している。』
このタイヤは、フランスのミシュラン社の軍用タイヤ「Michelin XZL war tires」の劣化コピー版らしく、性能が正式版よりだいぶ劣るようである。又、中国製のコピー商品はオリジナルのミシェラン製の軍用タイヤの半分以下の価格である。
『さらに軍用タイヤの専門家はそろってロシア軍の保管の問題も指摘した。
軍用タイヤに関してはその支える重量が大きいことから、1か月も同じ状態、同じ箇所だけに大きな重量がかかり続ける状態を続けると劣化が促進されてバーストを起こしやすくなるとされている。
その場合、日光や湿気の問題も生じるようだ。
複数の専門家がバーストしたタイヤの写真を点検し、目で確認できる表面の色や劣化の状態から、1か月どころか1年近く何の整備もされずに放置されていたに違いないとの結論に達したという。
また重量のアンバランスの問題だけでなく、直射日光に一定部分が長時間晒せれる部分的にタイヤの強度が落ちてバーストが起きやすくなるとも指摘されている。』
クリミア半島侵攻の場合は短期間で終わったのでこれらの問題が表面化しなかったが、ウクライナの場合、長期間化していろんな問題が浮上してきたのである。
南東部攻略にあたっては、ミサイルを多用して、まず空爆してから陸軍部隊が入っているようである。今は、自国や黒海からすぐに運ぶことができるようで、道路輸送の問題は、少なくなってきている。
国家の組織が腐敗していると、国の軍事力に大きなひずみが生じてくる。今回のロシアのように気が付いた時には、身動きができなくなっているのである。中国では国力強化のために官僚の腐敗や汚職を徹底的に排除した。
国力を強化するためには、政府の官僚組織の腐敗を排除しなければならないのは自明の理である。しかし、現在の日本の政府の腐敗構造を見ると、戦争どころか自衛すらおぼつかないのではないか。