なぜ高齢者や男性が新型コロナに感染しやすく重症化しやすいかという原因を知りたいため、NETをあちこち調べてみた。中には女性には性染色体のXが2本もあるからだという説もあったがこれは違う論文で打ち消された。
色んな説明の中で、次の研究が一番説得性があった。すこし、専門的なので何度か読み直したが、要点となる箇所だけをピックアップしてみた。

理化学研究所は2020年6月25日、血中で後天的なDNA変異を持つ白血球がクローン性に増殖することで、生まれながらのDNA配列と変異した配列が混ざって見える現象(体細胞モザイク)を解析し、加齢に伴うDNA変異と体細胞モザイク出現は体細胞モザイクが白血病をはじめとするがん化メカニズムに影響を与えることを明らかにし、体細胞モザイクは全死亡率の10%の上昇と関連することもわかったと発表した。

体細胞モザイクはCOVID-19感染のリスクを高める―77万人を対象にした国際的な大規模解析による成果― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構によると、
「mCAは、生まれながらのDNA配列を持つ体細胞と後天的に変異した体細胞が混じった状態(モザイク)になることを指す。mCAは白血球のサブタイプであるリンパ球の異常により、大規模な染色体再配列が引き起こされることで生じると考えられている。T細胞やB細胞を含む白血球は、感染症に対する適応的な生体防御(免疫)に重要な役割を担っており、免疫力が低下すると、感染症にかかるリスクが高まる。
mCAは白血球数の異常と関連することが知られていることから、国際共同研究グループは、mCAを持つ人は感染症にかかるリスクが高いのではないかと考えた。
mCAを持つ人の割合は年齢とともに増加し、特に男性に多く見られた。また、末梢血の全染色体にmCAが10%以上存在する人の割合は、40歳未満で0.5%、80歳以上では26.5%に達し、男女別では男性の方が高いことが分かりました。また、mCAは性染色体における男女差が大きいことから、性染色体を除く常染色体だけの場合も調べたところ、mCAが10%以上存在する人の割合は、40歳未満の人では0.27%、80歳以上の人では4.6%と、男女別ではやはり男性の方が高いことが分かった。

日本人ではT細胞の一部がクローン性に増殖し、検出可能レベル以上に達した人が多く見られた一方で、B細胞の一部が検出可能レベル以上にクローン性に増殖した人は少なかったといえる。白血病に代表される血液悪性腫瘍の内訳には、人種による特徴がある。日本人ではT細胞系の悪性腫瘍が多く、B細胞系の悪性腫瘍は少ないこと、欧州人では、慢性リンパ球性白血病(CLL)というB細胞系の血液悪性腫瘍が最も多いことがわかっている。」

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上記の研究を踏まえて、科学雑誌『Nature Medicine』オンライン版(2021年6月7日付)に掲載された理化学研究所 生命医科学研究センターの更なる研究によると、

「感染症のリスクは加齢に伴って高まるが、白血球が自分のクローンを作るように増殖することを「クローン性造血」と呼び、クローン性造血は加齢に伴う血液細胞(体細胞)のDNA変異によって引き起こされ、一般的ながんの前段階であること、そしてがんのリスク以外にもさまざまな健康被害と関連していることが分かっている。

「クローン性造血の特殊な形態として「体細胞モザイク(mCA)」があり、mCAは、生まれながらのDNA配列を持つ体細胞と後天的に変異した体細胞が混じった状態(モザイク)になることを指す。mCAは白血球のサブタイプであるリンパ球の異常により、大規模な染色体再配列が引き起こされることで生じると考えられている。T細胞やB細胞を含む白血球は、感染症に対する適応的な生体防御(免疫)に重要な役割を担っており、免疫力が低下すると、感染症にかかるリスクが高まる。」

 

A:全染色体にmCAが10%より多く存在する人の割合。40歳未満で0.5%、80歳以上では26.5%(53倍)に達し、男女別では男性の方が高かった。
B:常染色体(性染色体以外)だけに限った、mCAが10%より多く存在する人の割合。40歳未満で0.27%、80歳以上では4.6%(17倍)であり、男女別では男性の方が高かった。

更に、非喫煙者よりも喫煙者のほうが、体細胞モザイク保有割合が高いことも明らかになった。

「CUBのCOVID-19患者871人を対象に、COVID-19の転帰(病気が経過して他の状態になること)と世界保健機関(WHO)のCOVID-19進行度に基づいて、患者を(1)軽症、(2)中等症、(3)重症(死亡を含む)の三つのカテゴリーに分けたところ、mCAを持つ人の割合は、それぞれ軽症患者では5.8%(16人に1人)、中等症患者では13.9%(7人に1人)、重症患者では16.9%(6人に1人)と、重症になるほど高くなることが分かった。」

結論としては、mCAは白血球数の異常と関連することが知られていることから、mCAを多く持つ人は感染症にかかるリスクが高くなり、重症になる傾向がある。その結果、年齢とともにmCAの量も多くなる高齢者のCOVID-19に対するリスクは増え、さらに、性染色体のmCAは男性の方が多いことからも、男性の方が女性より感染するリスクも症状の重症化も高いと考えられるということである。

尚、このmCA体細胞モザイクの数値をどのようにして測定するのか調べてみたが、NET上には、見つからなかった。

【参考】

T細胞:T細胞とは、リンパ球の一種で、主に感染した細胞を見つけて排除する役割をもっており、骨髄幹細胞から分化し、胸腺(Thymus)内で成熟することからTリンパ球とも呼ばれている。T細胞には大きく分けて3種類あり、それぞれの役割は指令塔(ヘルパーT細胞)、殺し屋(キラー細胞又は細胞障害性T細胞)、抑え役(レギュラトリーT細胞、Treg)の三役に分けられる。

B細胞:B細胞は骨髄にある造血細胞から作られる白血球の一種で免疫細胞の一種である。ウイルスや細菌(抗原)が侵入してきたときに、形質細胞に変化して抗体を作って攻撃したり、メモリーB細胞となって1度目の感染を記憶して、次回の感染に備えるといった働きをする。
免疫には生まれたときから持っている「自然免疫」と、生まれた後で獲得する「獲得免疫」の2種類がある。B細胞は私たちが生まれてから生きていく中で獲得していく獲得免疫である。自然免疫は初めて感染したときから抗原を認識して排除でるが、獲得免疫は抗原を記憶できるため、対応できる抗原の種類と抗体を増やすこともできる。