ゼレンスキー大統領の内憂外患「ウクライナ国内の汚職と支援武器の横流し」
世界中を不安の渦に巻き込んだのはロシアであることには間違いない。一方のウクライナは、ロシアの攻撃に応戦しつつ、ソ連時代からの政財界の癒着に基づく汚職の体質は、今も尚続いており、政府高官の更迭は後を絶たないのが現状である。
2022年の世界汚職度国別ランキングにて180か国116位となった。 2021年は、122位であった。
ドイツのシンクタンクの集計では、日本や欧米など各国がウクライナに約束した軍事、経済、人道分野の支援は昨年十一月時点で総額千百億ユーロ(約十五兆六千億円)以上になる。恐らくウクライナは戦後復興でも巨額の援助を必要とするはずである。
しかし、ウクライナ国内の横領や汚職が続くと、支援機運に水を差す。支援国も供与した武器が横流しされたり、援助資金が腐敗高官の私腹を肥やすことを問題視している。
旧ソ連諸国に共通するのは、クレプトクラシー(泥棒政治)と呼ばれる腐敗した体制である。 社会主義国家のソ連崩壊に伴う体制移行において、公正なルールに基づく資本主義ではなく、権力者を頂点とする権威主義体制下、ひと握りの者が国富を独占する縁故資本主義がはびこったのである。 ウクライナも例外ではなかった。
ウクライナは比較的平穏な時代でさえも、世界の不安定な地域へ武器が横流しされる「グレーゾーン」として知られていた。2017年、国際NGOの「汚職・組織犯罪研究センター」は、EU諸国からの武器がアフリカ諸国に届く「重要な要素」にウクライナがなったことを報告していた。
米国防総省は特定の部隊に送る武器に印をつけておらず、ウクライナ側も「弾の1つ1つについて米国側に通達はしていない」と断りを入れているように、現在の欧米のレンドリースの流れから闇市場への流出量を推定するのは、当然ながら難しい。
軍事専門家のドミトリー・ドロスデンコ氏は、ウクライナに供給された兵器の「相当な部分」が、特に携帯が可能な兵器である対戦車ミサイルや携帯式防空ミサイルシステムは闇市場に出回っていると考えている。「武器はウクライナからアフリカへ、そこから欧米諸国へと流れる可能性がある。 また、兵器の多くは、イラク、シリア、リビアなど他の紛争地域に向けられる可能性がある」とも言われている。
「Nezigar」の情報筋によると、「15-20%の武器が直ちに北、西、中央アフリカ諸国に渡り、民間軍事会社の職員を装ってウクライナに入国したこれらの国の将校らによって供給されて」おり、「支払いは暗号通貨と現金で行われている」。「ウクライナの武器市場」の転売の総売上高は暗号通貨収入を除いても、1ヶ月あたり7億ドルに上る。
18世紀以来、密輸品が流れ込んできたウクライナ南部の港湾都市オデーサには「密輸博物館」があり、ここで展示されるのは、ロシア帝国に持ち込まれた真珠やピストルから最近の略奪品にまで及んでいた。しかし、2022年2月のロシア侵攻によって「港が閉鎖され、すべて止まった」と、言われている。
オデーサは、ウクライナとロシアを中心とし、アフガニスタンからアンデス山脈にまで至る広大な犯罪ネットワークをつなぐ重要な拠点で、「ヨーロッパでもっとも強力な犯罪生態系」の一部であると、スイスを拠点とするシンクタンク「国際組織犯罪に対抗するグローバル・イニシアティブ」(GITOC)は述べている。
この闇社会は、ロシアのウクライナ侵攻によって、大きく揺さぶりをかけられた。まず、硬派なウクライナのマフィアの大半は、ロシアン・マフィアとの連携を止めた。「俺たちは泥棒で、どんな国家にも反抗する。だが、ウクライナは支持すると決めたんだ」と、あるマフィアは言う。
オリガルヒ自体は他の国にも存在するが、ウクライナの場合には、特定の経済セクターの独占、政治活動への参加、メディアに対する影響力の保持という特徴があり、オリガルヒが所有するメディアは、オーナーや関連する政治家に都合の悪い内容を流しにくく、オリガルヒが世論に与える影響は多大であった。
ウクライナ国内はメチャクチャで経済は一向に浮上せず、IMF(国際通貨基金)の支援から抜け出せずにきた。21年の1人当たりGDPは4835ドル(世界銀行)で、ヨーロッパ最貧国のひとつにまで落ちていた。
その理由のひとつが、経済も政治も牛耳る寡占資本家、いわゆるオリガルヒ(新興財閥)の存在であり、。鉱山、鉄・非鉄、電力にはじまり、小麦、とうもろこし、ひまわり油、鶏肉まで主要な産業を押さえ、議会は彼らの息のかかった議員に支配されてきた。オリガルヒは自分たちのビジネスを守るために、私兵集団まで持っていた。そうした力を背景に国有銀行から資金調達し、投資に回したりしていた。国政はオリガルヒが牛耳ていたと言っても過言ではないので、国民は政府を信頼していなかった。しかし、ロシア侵攻によって、ゼレンスキー大統領の下に国民は一致団結しようとしたのである。
欧米がゼレンスキー大統領を支援し続けるのは、戦争終結後の復興を見据え、そうしたバランスにも期待してのことである。国内にはびこる問題を一気に大掃除し、政治と経済を立て直し、公正な社会を実現できるかが、ゼレンスキー大統領のリーダーシップ、そして国民の真の強さにかかっている。世界中の民主主義国が注視しているのである。
多くの兵士や市民の血が流され家族の涙が流され、その結果、残ったものがただのがれきの山と墓だけということがないように。