ゼレンスキー氏は驚くほど優秀な戦時のヒーローとしての大統領であり、ウクライナの団結においてなくてはならない人であるが、 2015年に「国民のしもべ」という政治風刺番組を大ヒットさせ主役を演じたゼレンスキーと同じ人物だと信じられない思いである。
その頃の彼の眼もとは穏やかである。


ユダヤ系ウクライナ人として生まれたゼレンスキーは、キエフ国立経済大学で法律を学んだにもかかわらず、卒業後はコメディアンとして活躍した。

彼は「第95街区」というコメディ劇団を結成、台本、脚本を書いて制作にもかかわり、テレビ番組にも出演した人気者であった。

2018年には、ドラマと同名の「国民のしもべ」という政党を立ち上げ大統領選に出馬、翌2019年4月、得票率70%以上で現職ペトロ・ポロシェンコ大統領を打ち破って大統領に当選する。

フィクションの世界からリアルの世界へ連続的に移動して来た感は否めない。

ただ、ゼレンスキーは、その大統領の役を見事に演じ切っている。よく考えてみれば、権力欲の権現のような国家のトップたちの誰しもが、絵に描いたようなかっこいい大統領を演じようと躍起になっている中で、ゼレンスキーはトップスターであると言わざるを得ない。

しかし、権力と財力への執着は切り離すことができない。今回エジプトで明らかになったゼレンスキーの義母名で購入された7億円別荘事件は、ゼレンスキーの金銭欲を明るみにさらしてしまった。その資金源が世界各国から集まった支援金だというのだからあきれ果ててしまう。

もともとウクライナという国自体、世界でも有名な汚職国家で、ウクライナの政界はオリガルヒ(新興財閥)によって支配されてきた。

しかし、ここに至って、現在ではプリンター用紙から病院のベッド、市立動物園の動物の餌まで、一般市民が利用できるオンライン・ポータルを通じて購入することが法的に義務付けられるようになった。(日本も見習うようにしたいものである)


しかし、ゼレンスキーは何度も暗殺されそになりながらもその大統領という役を演じ続けたのである。


彼のコミュニケーション能力は大統領演説として発揮され世界中から称賛された。


国民の死の数に比例して彼の目つきはだんだん変わって、もはや侵攻前の穏やかな目は戻ってこなくなってしまった。


戦時下の大統領の苦悩そのものの目つきへと変貌せざるを得ない。何故なら、ゼレンスキーは天才的名優だからである。


役柄が乗り移ってしまったのではないか。


もし今暗殺されても彼は最もふさわしい名セリフを残してなくなるであろう。


もはやコメディアンとしての面影は皆無である。


大国ロシアに翻弄される小国ウクライナの大統領は、360度からカメラで撮られても恥ずかしくないセリフと動きが滑らかに湧き出てくるのだろう。


今のウクライナからゼレンスキーを取り上げることはできない。ウクライナ=ゼレンスキーになってしまっている。


命も危うしいと言うのに彼の代役はいない。なにしろ、台本から脚本まで自作し、アドリブで見事に主役を演じるのであるから、そんな代役はこの世ひろしといえども存在するはずがない。


世界一追い詰められた大統領かもしれない。

彼としてはどうしてもハッピーエンドに持ってゆかなければならない。ウクライナの悲惨な歴史の上塗りをする大統領という筋書きは「国民のしもべ」の続編とは成り得ない。

「国民のしもべ」という映画を見て、ウクライナという国は上から下まで汚職まみれで日常化しているのだという印象を受けたが、ロシア侵攻以来その体質は少しも変わっていないようで、支援している国もそれを承知しているからその辺のバランスをとりながら世界へアピールしているのだろう。

ただ、これらの権力者の陰で亡くなっていった市民や兵士のことを思うとやり切れない。