「ひとくち妖怪」ってご存知かな。誰かが何かを食べていると、横から覗き込んで「ひとくち、たべさせて?」と言ってくる。


「おいしい?」「どう?」を連発しながら、箸を伸ばしてくる。


彼らは、決してお腹が減っているからひとくち食べたいのではない。食べ物に対する好奇心が旺盛なのだ。味見をしたいのである。


「ひとくち妖怪」たちの常識とは、食べ物は分かち合うべきもので、みんなで「美味しいね。ね。」と言いながら楽しく食べたいのである。
一人で黙々と食べるなんてことは論外である。だから、自分が食べているときも、「ひとくち、どう?」と気安く味見させようとする。悪気なんてサラサラ無い。ところが、世の中には、一人でじっくり味わって食べたいという人(孤食妖怪)もいるのである。孤食妖怪にとって、「ひとくち妖怪」は天敵である。


孤食妖怪にとって、ひとくち妖怪がひとくち味見して、「まずっ!こんなのよく食べるわねえ。」と言われたときほど嫌な時はない。中には、食べている間中、横で「なにがおいしいの?」とか「貴方の好みて信じらんない!」と言い続けるひとくち妖怪もいる。こういう無神経は妖怪はひとくち妖怪とはいえない。ただのイヤミ妖怪である。

一般的に、ひとくち妖怪達は社交的でよく喋る。方や、孤食妖怪たちは非社交的で無口である。その結果、この世には、ひとくち妖怪が大口を開けてのさばっているのである。


かく言う私、何を隠そう「ひとくち妖怪」なのである。いや、妖怪なんて言うレベルではないかも。「ひとくち怪獣」かもしれない。
味見させてくれるまで、「ひとくちでいいから、ねえ、ねえ。」と言って顔を寄せていくとともに、お箸も近づけていく。相手が、落ち着いて食べられなくなって、「しかた・・・・(がないわね。ひとくちだけよ)」の「し」ぐらいでもう箸を突っ込んで、「ね。」ぐらいで飲み込んでいる。美味しくなかったときは、次に移る。
決して、「まずい」とは言わない。次に続けなくてはならいのである。


「こっちのほうは、どうかな?」といって又ひとくち。一度許諾を得ると後は好き勝手にひとくちずつ味見していいという暗黙のルールを自分勝手に作っているので、どんどん手を出していく。相手の抗議はこの際無視。


最終的にはすべてについて味見をするが、「私のも食べてみる?」とか、「○○○はおいしいね。」とか肯定的な言葉をかけて、必ず「ありがとう」「貴方っていい人ね」と言っておく。なにしろ、食べ物の恨みは恐ろしいから。

料理好きは、どうしても「ひとくち妖怪」ななってしまう。同じひとくち妖怪でも好かれる妖怪にならねばと思っている。味見を通してそれぞれの人の好みを憶え、何時の日にか食事に招待してあげられるように心がけているのである。目指せ、ひとくち妖怪の鏡。