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日本の扇の構図は、世界に類を見ないものである。日本美術の通説によれば、扇の要を中心とした構図であるとして、もと扇絵を描いていた俵屋宗達の絵の中心を、扇の要の位置に収束するように無理な補助線を引いて証明して見せている。一見すれば、なるほどと思ってしまうが少し違っているのである。40年間扇の構図について考え続けた私の主張は、「扇の構図は右らせん構造である」ということである。扇は「時計回り」にしか開かない。左から右へ扇骨の廻りにそって扇の構図は展開されている。3次元の構図を2次平面に置き換えると「自然な破調」に見えるのである。上の扇の構図はこの「破調右らせん構図」の典型である。

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この扇の構図を検証してみよう。左から右への自然な流れが美しい。

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然るに、裏側の構図は無理をして線対称にしてあるが、そのために時計回りのらせん構図が反転してしまっている。落ち着かない構図になっている。

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この扇は、もみ箔の銀地に手書きの松である。表面の構図は左下から右上へ「右らせん構図」をとっている。決して要を中心にした構図ではない。要から少しずれたこの破調こそが「扇の右らせん構図」なのである。

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裏には松の枝が左上から右下に向かって描かれている。これもまた、らせん構図である。このようにウラとオモテの絵を書き分けているこの扇は、全てにおいて上等な仕上げになっている。(もみ箔については後日説明の予定)

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これもまた、もみ箔の銀地に切り箔散らしであるが、一見すると左らせん構造(反時計回りのらせん構造)のように見えるが、大きな面積を占める余白の箔地が主体である。余白の美とよく言われるが、このように余白のほうが「時計回りのらせん構図」を持つ扇はよく見られる。しかし、このように「右らせん構図」をすべての日本の扇がとっているかというとそうではない。何故かと言うと、こういうことは、秘伝なのである。それも「口述秘伝」だったと思われる。それ故、伝統産業の衰えと共に後継者もないまま消えてしまったと思われる。残念である。もし、骨董屋さんの片隅やリサイクルショップで扇を見つけたら、この右回りのらせん構図の扇を探してみてほしい。そしてそれが見事な破調をなしていたら、ぜひ買っておくこと。なぜなら、日本が世界に誇れる美であるから。