切り箔(きりはく)についてー小石・野毛(こいし・のげ)
ホログラムの箔フィルムを使って箔アートをする前には、伝統工芸の箔の技術をマスターするのに明け暮れた時期があった。切箔の技術を教えてくださったのは、京都の箔匠の親方である。今はもう亡くなられたけれども、跡継ぎの息子さんとは今だに行き来がある。
箔を小さく正方形に切ったものが「小石」(こいし)である。銀箔はそのままできるが、金箔は何枚か重ねて切る。5枚重ねたり、中を銀箔にして裏表を金箔にした3枚重ねを切ったりするが、元々一枚の厚金(あつきん)という純金箔もある。
小石はまだ切りやすいが、最初難儀したのは野毛(のげ)である。箔を細い短冊状にしたのもで、幅は1ミリ以下、長さは1~2センチぐらいのものである。
野毛は別名「野木」(のぎ)ともいわれる。読んで字のごとく、野原に散っている毛や木の枝のようなものという意味であろう。
これらの小石や野毛を切るには、まず、「箔切り台」というものが必要になってくる。上の写真は、京都で買った箔切り台で、箔を販売しているところに頼めば入手できる。価格は1万円ぐらいであった。
箔切り台の素材は、桐の木のうえに和紙を重ねて、その上に真綿を置き、なめして柔らかくなった鹿革で包んである。いわゆるバックスキンである。昔の上等なめがねやレンズはこのバックすえスキンで拭いていた。
これは、金箔で有名な金沢の白夜さんで買ったものである。京都のものと違うのは、皮が豚革をサンド加工して起毛させたスエードである。価格は少し安く5000円位だったと記憶している。
裏は同じく桐の木で、中央に穴が開いている。この穴は、左手の中指の先を当てて箔切り台を持つときの穴である。箔切り台をくるくる回して箔を切るときに使用する。
これらの箔切り台は、自家製である。白いものがバックスキンで着色されているものがスエードである。自分で作ると価格は五分の一ぐらいになる。尚、入手しにくい真綿の代わりに安価な不織布を使うことをおすすめする。それから、和紙は新聞紙でも良いが、一番上の紙は書道の紙を使えば良い。上の着色されたスエードは、黒いほうがバッグの一部で、赤いほうがコートの切れ端である。だの木は、合板の切れ端をコーナンで100円で買った。
箔切り台の上に箔をおいて箔を切るためのものが、箔切りナイフであるが、これは従来の竹で出来ている「竹刀」(ちくとう)である。
箔を切る竹は組織が密な雪の降る寒い土地で育った雌竹が良いと聞いている。切れなくなった時は、カッターナイフで削れば良い。
これは、西洋の箔ナイフである。基本的には切箔に使用するものではなく、箔の移動と箔の分割ぐらいに使うナイフである。
これは、私が重宝して使ったセラミックのナイフである。上は、断ち切りの金箔を量産するために作られた機械のための刃である。京セラの技研で分けてもらったものである(感謝)。下は、デパートで買ったセラミックナイフである。注意すべきは切れすぎることで、力余って箔切り台まで切らないように注意すること。
これらの他に、箔を挟む竹の箔ばさみと箔どうしがくっつかないための炭酸カルシウム(ベビーパウダー)の粉である。