随分以前に買った本ではあるが、又2度めで読み返している。人間味溢れる臨床話を書くことは、19世紀にその頂点に達し、その後は、非個人的な神経学に席を譲ってしまった。しかし、この本の著者・オリバー・サックスは、「心の病について語ることは、それは人間について語ることだ。」という主義を貫き通す。


「脳神経に障害を持ち、不思議な症状が現れる患者たち。正常な機能を壊されても、かれらは人間としてのアイデンティティを取り戻そうと生きている。心の質は少しも損なわれることがない。」と。


「オリバー・サックスは、神経学を学び、臨床医として、偏頭痛、知能障害、脳炎後遺症の治療に当たる。感動を呼んだ映画、「レナードの朝」の原作「めざめ」をはじめ、人間のからだと心への深い洞察に満ちた著書によって、20世紀有数のクリニカル・ライターとして知られている。」

昨今の心療クリニックのあり方は、人間の心を置き去りにしていると思われる面が多々ある。


内容的には、脳神経の喪失、過剰、移行という3つの症例に分けて語っている。
彼はこの中でも、一体人間とはどういう存在なのかと常に自問している。


そして最後に、知能障害の患者の純真について語っている。彼らに少しでも普通の生活をさせるべく単調な訓練を施したところで幸せになれるのだろうかと疑問を呈し、それよりも、一つでも光っている部分こそ彼らが人間らしく充実した日々を送ることが出来る部分であると主張する。「障害者に普通を求めるのは愚の骨頂かもしれない。障害者なればこそ、好きなことが最重要視されるべきなのではないか。」と。


この本は、精神医学を心がけるものはぜひとも読むべき一冊であるし、一般の人でも、人の心とは何かと問うときには、是非参考にする著書であると思う。