今から何十年か前、私が大学生だった頃、「漢字の起源」という講義の中で先生が教えてくれた「中国国恥地図」(ちゅうごくこくちちず)が、ロシアの侵略戦争を決起として最近注目を浴びているようである。
この「中国国恥地図」は、1933年に上海の世界輿地学社から発行された小学校用の地理の教科書で使用され、中国が喪失した領土として教育されたものである。その地図では沖縄を含む琉球群島、台湾、東沙諸島、フィリピンのパラワン島、インドシナ半島、ボルネオ島北部のマレーシア、ブルネイ、マレーシア、シンガポールのあるマレー半島、インド領のアンダマン諸島、サハリンなど多くの国の領土を含んでいる。面積にすると現在の中国の約2倍もの大きさである。

この中国の「国恥地図」と呼ばれる古地図は、列強の半植民地支配を受けていた1世紀ほど前に中国各地で作られたっものである。地図の名前が示す通り、欧米列強各国や日本などによる侵略で失われた土地を強調し、人々の義憤と愛国の情を呼び起こすためのものであった。そこに「かつての国境」であると地図が示す、広大なアジアに広がる範囲は、中国の人々が考えていた「あるべき祖国の姿」であった。
「中華民族の偉大な復興」を唱える習近平国家主席は、愛国心高揚の旗印のシンボルとして、この国恥地図に描かれる「あるべき中国の姿」を国民に誇示してやまない。中国人を一つの標語の元に意識の統一をはかるには、この地図以上のものはない。言葉でなく図なのである。字が読めなくても教育を受けていなくても一目瞭然の説得力のある地図である。国力が弱かった当時の中国が、欧米などによって植民地化され、搾取と屈辱を受ける以前の世界が、その地図には描かれているということである。描かれているすべてが中国の領土というよりは支配力が及ぶ地域という意味だとしても、世界を震え上がらせる地図であるには違いない。
習近平国家主席が提唱する「一帯一路」というスローガンは、中華人民共和国が2017年から推進し続け、中国と中央アジア・中東・ヨーロッパ・アフリカにかけての広域経済圏の構想・計画・宣伝などの総称を指すが、これこそ「国恥地図」の拡大版であり、中国の野望である。

「国恥地図」は、色んなバージョンがあり少しづつ違っているが、現在、中国が戦前の中国勢力範囲とみなしているものは大体上記のようなものである。その領域は、南北朝鮮、台湾、ベトナム、インドネシアの一部、シンガポール、カンボジア、ミャンマー、ラオス、ネパール、インドの一部、アフガニスタン、タジキスタン、キルギス、ウズベキスタン、カザフスタン、モンゴル、ロシアの極東、サハリン等を含んでいる。
中国は、いつの日か世界の半分をその手中に収めるべく、経済制裁を加えられることを前提に自給自足体制を着々と進めている。
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻に批判的立場をとらない中国の本意は、失地回復の同じ意図があるからである。ロシアのプーチン大統領には、ロシアが巨大な版図と影響力を誇った帝政時代へのこだわりによる近代化やソ連崩壊の過程で失った土地や威厳を取り戻そうとする意図がありありと見えてくるのである。
中国は、今、ロシアのウクライナ侵攻の成り行きをじっと見ているのである。現在の中国は戦争経験がない。それ故ウクライナ戦争を疑似体験としてとらえてるのかもしれない。
しかし、中国はロシアが強大になることは望んでいないはずである。何故なら中国はロシアと国境を接しているからであり、ロシアの一部は中国の勢力範囲に置かれる予定の領域だからである。
超大国中国の野望は、ロシアを超えて、民主主義の上に打ち立ててきた国際秩序に揺さぶりをかけて亀裂を入れようとしている。
余談であるが、この地図をよく見てみると、千島列島は、どうも日本の国土とみなされているようである。北方領土は北方4島だけでなかったのだ。平和的に、あくまでも平和的に、何とか千島列島が日本のものにならないかな。そうすれば魚がいっぱい捕れるのに・・・と、捕らぬ狸の皮算用の私であった。