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余命いくばくも無くなった時、医者は患者に問いかける。「何か思い残すことはありませんか?」

この問に終始一貫して、「特に、」「別に」と答え続ける人がいる。
我が夫もその一人であった。
意欲がないわけでもなく、頭がまわらないわけでもなさそうであった。
特に、この場に臨んで特別な返事をしているわけではない。
若くても元気でも、答えは同じ。
物事にこだわらないアバウトな性格で、その日一日を自分が楽しく生きていければ満足だという。
「飛ぶ鳥跡を濁さず。」なんてことは意味を成さないらしい。
死ねば、この世のことは自分の知ったことではないから、生きている家族のしごとである。
嫌なことは、無視するか、忘れるようにする。
小学生の息子を残して世を去ることは、死ねば自分とは関係のないこと。
身の回りの整理も同じく、死ねば自分とは何の関係もないこと。

楽天的で人当たりがよければ、最後の最後になるまで、廻りも家族もこの自己虫に気がつかない。
程度の差こそあるが、私の廻りにもこのタイプの人が大勢いる。皆んないい宿主を見つけて幸せそうである。
宿主だけが、いつも浮かない顔をしているけれど。
自己虫は、いつの間にか寄生虫になっていた。

こんな生き方があったとは、最近まで知らなかった私。
私は思い残すことがいっぱいで大変だ。
後始末だけでもと、焦らずにはいられない。