日本の雪の紋に見る抽象的な表現の豊かさ
日本の雪の紋は江戸時代の「雪のお殿様」下総国古河藩の第4代藩主、土井利位が著した雪華図譜によるところが大きい。
非常にシンプルな幾何学紋でありながら雪の様々な表情をよく捉えている。
まず。これは「ゆき」、雪を象徴する形態である。
少し特徴を出して「はつゆき」。柔らかくふわふわチラチラ降る雪である。
単なる雪がやがて「吹雪」となる
山に降る「山雪」。棘っぽい部分が肌をさす冷たさを表現しているのか。
更に山に風が吹いてくると「山風雪」。
谷にふきあれる雪「山谷雪(さんやゆき)」
矢のように肌を刺す凍った雪「矢雪」
ガンジキについて固まった雪「厳敷雪(かんじきゆき)」
日本人の抽象化能力の極みか。
雪が溶けてつららになった「つらら雪」
くもり空から後から後へと降ってくる雪「曇り雪」
雪を頂いた笹の葉「雪持ち笹」。このように雪を被ったものを「雪持ち~」と名付けられる。
横向きの梅の花に雪が積もっているので「雪持ち横見梅」。
ふわりふわりと降ってくる「花形雪」
やがて暦の上では春がやってくるが、まだ春に降る雪「はるかぜ雪」
ナズナが出始めるが、そのナズナの上にも雪は時々ふる「ナズナ雪」。
囲炉裏の横に置かれた釜敷きも雪の形をしている「雪形釜敷」
雪の輪を型どった「ゆきわ」。この雪輪のかたちをいろんな紋に応用していく。
雪輪を変形させて蔦(つた)の葉に似せている「雪輪蔦」
雪輪の中からのぞいている桜のようにも見える変わった梅の花「雪輪に沿う覗き変わり梅」、
名前が詳しすぎ。
これは見たままで「雪輪に三つ日の丸扇」(雪輪に 三つ 日の丸 扇)
雪輪が2つ重なって「違い雪輪」
雪輪が三つ重なると「三つ組み合い雪輪」
紋の形はシンプルなのだがその名前に戸惑う。ひらがなばかりで書かれていたり漢字だけで書かれていると意味や読みがよくわからないものもある。調べてもわからない時は想像力をたくましくして解釈している。
然るに上の紋の名前は「こくもちじぬきはるかぜゆき」であるが、おそらく「黒持ち地抜き春風雪」であろうと思われる。日本語は難しい。
はるか昔、雪の模様を作るために雪の紋型を集めてコピーした時のものであるので一体何の本から採用したのか今では全くわからないが、このような紋型は時代が変わっても変化しないものである。