トルコのエルドアン大統領はロシアとウクライナ両国と良好な関係にあるようで、戦争の調停において存在感を誇示し、経済悪化に伴う政権の危機を脱却、来年の大統領選挙での再選を目指している。

エルドアン大統領はロシア軍の侵攻以降、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談で停戦を仲介、3月10日には南部アンタルヤでロシアのラブロフ、ウクライナのクレバ両氏の外相会談を実現させた。続いて、3月29日にはイスタンブールで停戦交渉を開催、トルコの存在感を世界に誇示した。

その間、トルコはロシアのウクライナ侵攻に対し批判はしているが、NATOの一員でありながら欧米の経済制裁には参加せず、一方でウクライナには多数の武装ドローンを供与、軍事的に支援している。

このように相対する2方向に対し、あっちについたりこっちについたりすることを内股膏薬(うちまたこうやく)という。足の間に膏薬(あぶら・ろうで薬を練り合わせた外用剤で、皮膚に塗ったり、紙片または布片に塗ったものを患部にはりつけたりして用いる)を貼ると右足の内側についたり左足の内側についたりする様を、人間関係に例えていう言葉。二股膏薬ともいう。


トルコのエルドアン大統領がロシアへの制裁に加わらない理由は、トルコは国内消費の天然ガスの約4割をロシアに依存していること、そして、収入減の大きな柱である観光産業においては、外国人のトップはロシア人でウクライナは第3位である。

経済的なつながりで言えば、トルコは国内消費の天然ガスの約4割をロシアに依存している上、収入減の大きな柱である観光産業もロシア頼みだ。統計によれば、昨年トルコを訪れた外国人のトップはロシア人の469万人。ちなみにウクライナは第3位の206万人だ。トルコ初の原発もロシアが20億ドルで受注し建設中。

特に軍事的には、シリア北部に置ける支配に対してはロシアのプーチンと利害が一致する等、トルコの安全保障を優先したのである。


しかし、ウクライナのクリミア半島にはトルコ系の少数民族タタール人が居住しているので、同国人を守るためにも、プーチン氏の不興を買ってもウクライナへの軍事支援をやめるわけにはいかない。それ故、トルコは、ウクライナへの軍需産業と連携、攻撃型ドローン「バイラクタルTB2」を供給。

エルドアン氏はここ数年、シリアやリビア、イラク、ナゴルノ・カラバフなどの紛争に直接的に介入し軍事力を行使してきたが、経済悪化による政治的苦境を外交的成果で脱却するという思惑が強い動機になっている。しかし、現実には、インフレが高進し続け、新型コロナウイルスのまん延が追い打ちを掛け、庶民の生活は困窮している。

この苦境を切り抜けるためにも、エルドアン大統領にとって、ウクライナ戦争の停戦調停に成功して、その国際的な成果を国民に掲げて支持率を回復し、大統領選勝利に導きたいのである。

エルドアン大統領の独裁政治はミニプーチン的である。ミニプーチンがNATOの一因だということ自体に無理があるように見える。この内股膏薬的外交のバランスはいつまで保つことができるのか。