ロシアのプーチン大統領は中学時代から読書好きで知られている。そこで、プーチンという独裁者に影響を与えた本というものがあるのなら知りたいと思って調べてみたら、ほとんどの記事の元になっているのは、ロシアビヨンドのサイトであった。一応、次にベストテンをあげてみる。

ロシアビヨンドより
1. レフ・トルストイ『戦争と平和』
2021年6月、恒例の「国民との直接対話」の席で、プーチン大統領は、自分に最も影響を与えた文学作品として、1812年の、ナポレオン率いるフランスとの戦いを描いた、この叙事的な大長編を挙げた。

2. ロシアの民話「コロボーク」
この話では、擬人化された丸いパン生地、「コロボーク」が主人公だ。彼は、周りのみんなを信用しすぎて、やがて狡いキツネに食べられてしまう。この作品の教訓も、大統領に影響を与えたという。

3. ミハイル・レールモントフ
いつも座右に詩人ミハイル・レールモントフの著作を置いていると付け加えた。「何か他のことについて考え、気を紛らして、有益で、美しく、面白い別世界を垣間見るために」
大統領は、実戦部隊で戦ったレールモントフは非常に勇敢な男だったと考えている。「彼は祖国とその利益のために命を捧げる覚悟があった」

4. サムイル・マルシャーク『12の月たち』
孫たちに読み聞かせている本で わがままな女王をめぐる、かなり教訓に富んだ話。

5. アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』
プーチン大統領は、この不思議な少年の話を非常に愛読した。

6. アレクサンドル・デュマ
ロシアに旅したデュマは「クレムリンに大統領または皇帝がいる。彼は窓から何を見ているのだろうか?何も見てはいない」と言った。
プーチン大統領は、作家に完全に同意し、こう付け加えた。「政府で高い地位を占める最大の問題は、個人としても、職業面でも、非常な孤立、孤独を強いられることだ」

7. アーネスト・ヘミングウェイ
好きなヘミングウェイの作品として、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』、『老人と海』。
若い頃はジャック・ロンドン、ジュール・ヴェルヌ、アーネスト・ヘミングウェイなどを愛読したと述べた。
「彼らの作品の主人公、つまりエキサイティングな冒険をする勇敢で機略縦横な人たちは、当然、私の性格と野外活動への嗜好に影響した」

8. イワン・トゥルゲーネフ
イワン・トゥルゲーネフを「ロシア最良の古典的作家の一人」と呼び、『猟人日記』を推奨した。「この作品は、ロシアにおける、狩猟の『哲学』の全体を反映している。つまり、大事なのは結果ではなく、プロセス自体であり、自然の懐に近づき、人々と接する点にある、ということ」。

9. ウマル・ハイヤーム
気持ちが落ち込んだときは、犬のコニとウマル・ハイヤーム(ペルシア詩人)の詩が助けになったという。
「この詩集には、そんなときに助けになるような、多くの興味深いものが含まれている」

10. セルゲイ・エセーニン
「農村詩人」を、故郷への真の愛のゆえに尊敬している。エセーニンの詩「わが愛するルーシ」

以上が、ロシアビヨンドがあげるプーチンの愛読書についての記事であるが、このロシアビヨンドというサイト自体が怪しげで正体不明である。ここに挙げられた10項目は、あくまでも対外向けのプーチンのイメージ作りのための愛読書一覧でしかない。これだけ見ればプーチンはインテリの普通のお爺さんである。こんな人が実際のプーチンのイメージと重なるであろうか。

プーチンの足跡を追っていけば彼が愛読したのはこんなものではないと分かる。何を言ったかではなくプーチンが何をしてきたかを見れば、彼がいかなる本を繰り返し読んだか推量できるはずである。で、プーチンの実際の足跡を追ってみる。

・プーチンは小説や映画で、特に日仏合作の映画『スパイ・ゾルゲ/真珠湾前夜』を見てスパイに憧れを抱いたとされる。1991年8月の共産党解体までは共産党を離党せず、本人曰く党員証は今も持っているという。

・1999年8月16日には正式に首相に任命されると、第二次チェチェン紛争の制圧に辣腕を振るい、「強いリーダー」というイメージを高め国民の支持を獲得した。(その頃の記者会見で言い放った「テロリストはどこまでも追跡する。便所にいてもぶち殺す」という発言の容赦なさや下品さが話題になった。)

・2000年12月にソビエト連邦の国歌の歌詞を変えて新国歌に制定した。(これはロシア国民に「強かった時代のロシア(ソ連)」を呼び起こすためらしい。)

・企業の政治介入を排除し、恭順を誓ったオリガルヒに納税させ国家財政と崩壊寸前だったロシア軍を再建した。
オリガルヒと密接な関係にあるとされた政治家も遠ざけ、代わってシロヴィキやプーチンと同郷のサンクトペテルブルク出身者を重用した。(しかし、プーチンと個人的に親しいオリガルヒは救済措置がとられるなど優遇された。勿論、莫大な見返りはもらっている。)

・2004年ロシア連邦大統領選挙に70パーセント以上の圧倒的な得票率で再選された。地方の知事を直接選挙から大統領による任命制に改め、より一層の中央集権化を進め、大統領権限を強化した。

・2008年5月7日に大統領を退任したが、新しく大統領となったメドヴェージェフによって首相に指名された。
・2012年3月4日に実施された2012年ロシア連邦大統領選挙で約63パーセントの得票率で当選した。
・2018年3月18日の2018年ロシア連邦大統領選挙では得票率76パーセントで圧勝[60]し、任期満了は2024年となった。

・大統領権限の一部を議会に移管すると共に、国家評議会の権限を強化する方針を表明し、大統領を退任する2024年以降も権力を保持するための布石とし、、権限強化により事実上終身大統領となる事を目指す。(2024年まであと2年しかないが、この間に、プーチンがロシアにとってなくてはならない英雄である実績を作ろうとするのは誰の目にも明らかである。)

・2022年2月24日、ロシア軍にウクライナの非軍事化を目的とした特別軍事作戦を承認し、軍はウクライナ領に侵攻を開始。(この戦争に成功し、ウクライナをロシアを支配下に置くことができれば、終身大統領となる事にだれも異を唱えないだろうし、ロシアの英雄として歴史に残るというプーチンの老後の計画である。)

以上現在までに至るプーチンの足跡を簡単に上げてみたが、その時々に、プーチンは一体どんな本を読んでいたのであろうか。ただ、ウクライナ侵攻の前にきっと繰り返し読んでいた本は、ピュートル1世やエカチェリーナ2世、帝政ロシアの硬派の政治家ピョートル・ストルイピンといった人物の伝記や歴史ものであったであろうことは、想像に難くない。

プーチンの読書は、楽しみのため、教養のため、そして野望のためという3種類がある。本当に知りたいのは3番目の野望のために読んだ本である。