「おい、何か言えよ。」
「僕、頭の中真っ白。死にそう。」
「俺も死にそう。」
「貴方たち、いいかげんにしてよね。大体、生きているときから、死について考えたことも無かったんじゃないの。まあ、こう言う私だって、大した死生観があったわけではないけれどね。それでも、こんなに早く死ぬとは思ってなかったわ。死なんてものは、もっともっと未来のことだと思っていたわ。」
「僕が解ったことは、・・・つまり、ですね・・・・」
「早く言えよ。バカ。」
「そうなんです。バカなんです。僕がバカだと言うことが良く分かったんです。生きていたとき、ホントになーんにも考えたこと無かったんですよ。死後の世界がこんなに複雑怪奇だとは知らなかったんです。解っていたら、もう少し勉強しておいたのに。」
「死後の勉強って、どうすんだよ。」
「貴方の馬鹿さ加減だけは、死んでも直らなかったようね。教養のために読書するとか、まあ、例えて言えば、人はなぜ生きるのか、とか、存在とは何か、とか、宗教とは、とか、えー・・・っと、まあ、そんな事よ。宇宙の外には何があるか、とか、次元と時間、とか、心理学と脳科学、とか、まあ、あまり日常生活には役立たないようなことだけれど、人間という特殊存在だからこそ、言い換えれば、人間は世界の有り様を時間軸で認識出来る意識体ということかしら。だから、必然的に、死について思索するのよ。ヒトはどこから生まれてどこへ行くのかってね。」
「それぐらい、俺にも解ってら。簡単だよ。腹から生まれて墓へ行くんだ。犬やネコでも解るってもんよ。」
「彼女の意味するのはですね、解りやすく言えば、人間は犬や猫とは違うって事。」
「そんなこたあ、見りゃわかるじゃんかよー。」
「貴方は、犬ネコに近いわね。犬や猫が、年取って、老後のことや死について考えるの?自分の居る宇宙について考えるの。人間だけでしょ。ヒトだけが、過去や未来について考えるから、生と死についても考えるのよ。たーだ、未来のことを考える脳領域は、他人のことを考える脳領域と同じだと言うから、自己虫ほど自分の未来についても他人ごと位の認識しか無いのよ。だから、オバカな自己虫には未来思考なんて出来ないわね。リアル自己虫ほど、抽象思考も苦手なんでしょう。だから本も読まないし、今、好きか嫌いかだけが、行動原理の総てになるんでしょうよ。貴方なんかと話すのは、時間の無駄ね。」
「僕、思うんですけれど、理屈じゃないと・・・・」
「じゃあ、何なのよ」
「俺、解ったーっと。おめえには、言ったって解らねえよ。死んでモナー。」
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