彫刻のプロが作った灰皿
この骸骨顔の灰皿を、よくよく観てみると、リサイクルショップの片隅に放置されるような物では無いことに気付いた。どうも、石粉粘土で作ってから水性ニスを塗って、研ぎ出しをして仕上げてあるようだ。
まず、タバコが置きやすい。あばら骨の間にバランス良く収まる。
筋肉質で有りながら顔は骸骨っぽい。髪は長髪。何処かで観たようなと思ったら、「プレデター」に似ている。顔を正面から見てみると、タバコを一寸斜交いにくわえている。その為に、鼻の穴をタバコの方へ歪めているのも、ニヒルでいい。
この足の裏を見て、何と的確な面取りであることかと感心した。迷うこと無く、スパスパっと彫塑用のナイフで処理してある。彫刻の勉強を長くしてきた人で、デッサン力もある事が見て取れた。
この足をくんだポーズの力のかけ方の無駄の無い事よ。骨を取り巻くように力強く表現された筋肉。
又、この歯が実に良く細かく表現されている。虫歯でがたがたの感じが良く出ている。
タバコを吸うと、歯にヤニが溜まり歯垢がつきやすくなる。その結果、虫歯になるわけである。この感じが本当に良く出ている。この灰皿を作った人も又、喫煙者ではないかと思うほどである。
この背中の骨に見立てたところで、タバコを消すのには、なんとほどよい凹凸であろうか。
縁から吸い殻がこぼれないように、負のアールを付けているのもにくい。
腕枕をした上に広がる髪の表現にも無駄が無い。髪の下の腕や頭の形を自然に理解させる。
兎に角、手抜きということが無い。頭部の表現は、どこまでも骸骨である。故に耳は無い。隠れた部分もきちんと作られている。丁寧で誠実な性格をうかがわせる仕事である。
頭の方から見てみると、人体の中心線が左足のかがと迄一直線に入っているのが解る。
足の方から見れば、かかとの延長線上に頭頂部があるのが良く分かる。このために足を傾かせているので、何気なく足を組んでいるように見えるのである。
灰皿としての機能性にも優れ、且つ、彫塑作品としても良く出来ているが、何よりもこのユーモアのセンスがいい。この灰皿は、「死んでも、タバコを吸ってやる。」と居直っているようにも見える。この灰皿を作った人に会ってみたいものである。